「塔」2018年8月号より①(月集・新樹集・作品1)
またもご無沙汰いたしました。
なんとか生きております。
8/18.19と、塔短歌会全国大会in浜松に参加しました。
一年ぶりに各地の会員の皆さんとお会いできて、
月々の結社誌をもっとしっかり読もう、と決めまして。
そこで、今月の「塔」から、数を決めずピックアップします。
これが塔のなかの絶対的秀歌だ!というわけではなく、
私基準で気になった歌たちです。M中さんのとか(名指し)
歌の順番は私なりに編集しています。
★
世界には知らないことが多すぎるでもきっとそれは知らなくていい /池本一郎
ペン取ればペンに重みのある右手八月号の清書を終はる /上大迫實
眩しくて支えきれない昼だから手伝ってっていったのに、桜が、 /江戸雪
トースターで食パンで焼いてくれた娘その食パンの効能を語りやまずも /花山周子
あ、夜だ 障子破りてその穴に顔をはめたる息子が言へり /澤村斉美
手作りのドクダミ化粧水二十年使いつづけてこれだけの顏 /福政ますみ
隣席(となり)の爺立ちあがりざまに屁こきたりひそかなれどなれど屁の音 /真中朋久
身の裡にあかるき空洞つくりつつ四月の朝の小便を終う /永田淳
歩いたら月までいくらかかるかの足の裏まで続く筆算 /拝田啓佑
スニーカー、ヒール、スリッパ並びいて留守番したり迎えくれたり /ホイラップ房子
七冊のハリーポッター終はるまで吾が連休は続くこととす /潔ゆみこ
くきやかに幼きものは声をあげ泣きつのるとき夜が身じろぐ /山下泉
植物の言葉がわかるようになり夫の言葉が音になりゆく /中山悦子
死刑囚は髪のばす自由ありといふ花越しに見る大阪拘置所 /酒井久美子
交戦権にころすじゆうとルビを振る歌を悲しむ やはり悲しむ /関野裕之
婚近き娘の乳房てんてんと白き病巣ちらばりてをり /鵜原咲子
怖づ怖づとされどどこにでも草は生え人並を願ふこと貧しいか /小林真代
顔面に文字が喰い込むこの感じつぷつぷと黒い釘のようにも /大森静佳
つぎつぎに類想のうた想はれて新刊歌集さびさびと閉づ /岡部史
その人の小さき同意の頷きが長く心を保つことあり /永田紅
★たまたま「反復オノマトペ+~と」の歌を多く選んでいました。
いずれの音も韻律をなめらかにしているのですが、
それでいてざらりと心に引っかかる感があり、魅かれます。