「塔」2018年8月号より②(作品2・若葉集)
前回の続きです。
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しようって言われて手を繋いだ国道 地図 伊能忠敬寂しかったですか /多田なの
モノクロの鉄腕アトムのラストシーンみたいに君へまっすぐまっすぐ /太田愛葉
社会からすこしづつ浮く僕たちがいつか月までゆくものがたり /宮本背水
このごろの睡眠時間を言う時に自分の嘆きは自慢にも似る /矢澤麻子
初夏のひかりに透ける木のかげのレントゲン車に胸おしつける /山名聡美
あれは鳥それは木これは花 パパは君に何にも教えられない /益田克之
参加者の高い意識と関心を背景に生地から捏ねている /吉田恭大
吾を嫌いし美術教師は同窓会の名簿に不明と記されてゐる /北島邦夫
長ければいいわけじゃないけれどこの坊さまの経十五分で済む /ジャッシーいく子
「ファイトのファ」あたりで揃ふリコーダー聞こえて来たり春の校庭 /栗山洋子
ブローチのやうにも見えて襟元にトカゲ動かず姉も動かず /川井典子
シャッターを押しては覗きまた押して富士はこんなに小さくはない /海野久美
ももいろのアイドルグループコンサート三万人は農道を帰る /きよとも
花冷えのほそきすきまをたどるごとあした芥をすてにゆくなり /千村久仁子
だんだんと母の世界の狭まりて娘や孫を窓として待つ /白梅
祖母を焼くあいだにつまむツナサンド 腹を減らして生きてしまえる /小松岬
介護士に拭はれてゆく死体(しにたい)よ夫のペニスはたにしのやうだ /江見眞智子
あけぼのに雉がひとこゑ高なきて春の冷気に罅(ひび)を入れたり /若山浩
田蛙の鳴く音(ね)ややに静まりぬ東の玻璃戸明るみてをり /篠原とし
春先にたんぽぽたんぽぽ白き絮いつか私のいない春くる /岩尾美加子
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ちょうど20選ずつになりました。
いい歌はもっともっとたくさんあったのですが、
連作として詠みたい結社賞受賞第一作・風炎集・特別作品は除き、
また百葉集(吉川宏志主宰が全作品から選ぶ当月の秀歌20首)や
各選者の後記で選ばれているものは、泣く泣く削りました。